こんにちは!
今回は上村達男著「NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか―法・ルール・規範なきガバナンスに支配される日本」 の感想です。
NHKでいま、何が起きているのか。その時、歴史は動いたのか。失われた法治を取り戻すには、どうすればよいのか。反知性主義が横行する時代を探る。
上村教授は、NHK経営委員会委員長代行として籾井勝人NHK会長のさまざまな放言に対して、圧力に屈せず「放送法に反する」と直言し続けた。
2015年2月、NHK経営委員を退任した会社法の権威が、経営委員会における籾井会長などとの論戦や出来事を「反知性主義」をキーワードに明らかにしていく。
「反知性」が支配する組織運営や意思決定の「病原」を探る歴史的証言。
同時に、法制審議会委員として経験した「会社法改正」審議や、法学部長として経験した大学改革をもとに、重要な意思決定や組織運営が、法・ルール・規範を無視し、「空気を読む」ことにだけ長けた反知性主義的ガバナンスに日本が支配されていることもNHKをめぐる動きの背景として明らかにする。
「籾井会長は経営委員会が指名したのですから、私にも経営委員の一人としての責任があることは間違いありません。(中略)本書のような書物を出版することで、問題のありかをすべてさらけ出し、NHKの今後のあり方を検討するための素材を提供することこそが、私にできる責任の取り方と考えるほかはありませんでした。」(本文より)
「私は、籾井会長の存在を許す現在の風潮、そこに見られる反知性主義的な空気にも本書で触れました。実は籾井会長問題はNHK問題だけを意味してはいないと強く感じたためです。そこでは、長年積み上げられた学問やその道の専門家の意見に敬意を払わず、報道の自由や学の独立に価値を見出さず、事あるごとに多数決を振りかざして少数意見を尊重しようとしない、きわめて反民主主義的な現在の政治状況があります。」(本文より)
【主な内容】
はじめに~NHK経営委員を退任した日
第1章 放送法違反が個人的信条~籾井NHK会長の論理と心理
第2章 法・ルール・規範が欠如してしまったNHKのガバナンス~機能不全に陥った理由
第3章 籾井現象の底流としての反知性主義~掟破りの連発
第4章 NHKガバナンスの再構築に向けて
おわりに~反知性主義が横行する時代を生き延びるために
https://www.amazon.co.jp/dp/B016JL8N7A?tag=hatena-22&linkCode=osi&th=1&psc=1 2021/6/1閲覧
(皮肉ではなく)ちゃんとした知性のある人が書いた本だなあ、という印象ですね。
内容としては、法学者(専門は会社法)である著者がNHKの経営委員を務めていた際に体験したNHKの会長・籾井氏の横暴なふるまいや人格的な問題点が前半にかかれ、後半ではそこから敷衍して日本の会社組織全般や社会全般にはびこる反知性主義について書かれています。
ただ勘違いしていただきたくないのは、この本は週刊紙のすっぱ抜き記事や低俗な「暴露本」の類ではない、ということ。
もちろん籾井氏がどんな非道なことをしていたのか、どれだけ人格的に問題のある人なのか、ということは書かれています。
たーくさん書かれています(笑)
ですが、この本が素晴らしいのは、「なぜそれがダメなことなのか?」「なぜそういった行為は許されないのか?」ということを、組織の論理やガバナンス、そして法律に根拠を求め、きちんと論理的に説明している点。
「不愉快な行為だった!だから悪い奴だ!」みたいな頭の悪いロジック(もはやロジックですらないですが笑)ではなく、「放送法○条の条文によれば~~と書いてあるので、彼の行為は不適切である」というように、法学部的ロジックによってきちんと批判している。
これが良い!
これぞ批判であり、これぞ論破。
「人を批判するときは感情に立脚するのではなく、きちんと根拠がなければならない」ということを踏まえている。
もちろんそんなことは知識のある人にとっては当たり前の話なのですが、それがあまりにも軽視されているのが現状であるわけで。
そんな世の中でも権力や地位に溺れることなく、正しく生きている人がいるということは心強いかぎりです。
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