こんにちは!
今回は、「絶滅危惧職、講談師を生きる」(神田松之丞・松江松愛著)の感想です。
この本は、今人気の講談師・神田松之丞の自伝本です。
皆さんもテレビなどで「宮本武蔵」などのネタをやっている彼を見たことがあるのではないでしょうか?
自分も笑点で彼の事を知り、一発でファンになってしまいましたね。
講談ってどこか取っつきにくく、あんまり笑えない印象があったんですが、彼の講談は特徴的な語り口もあって、すごく引き込まれましたね。
この本でも書かれているのですが、テレビ放送の講談というのは、面白くないものが多いそうです。
それは、作る側が講談のことを理解しておらず、編集やネタ選びがダメだから、とのこと。
この本では、そんな感じで、今の講談界や自分の半生について、赤裸々に語り下ろしています。
例えば、師匠よりも談志の方が(芸では)すごいと思うとか(笑)
では、各章ごとに簡単に内容を紹介したいと思います。
第一章 霧に包まれた少年期
ここでは活発で人気ものだった神田少年が、父親の死により人生観が変わり、屈折した学生時代を過ごしたこと・無二の親友との出会いなどが描かれます。
この章で印象的なのは、彼の語り口が、自分の過去を語っているにも関わらず、すごく冷静で客観的なこと。
過去にはあまり興味がないのかもしれません(笑)
第二章 受験よりも落語を優先した十八歳
ここでは彼の落語・講談との出会い・客としての4年間が語られます。
ここがすごい面白かった。
彼は大学では落研などには入らず、ひたすらCDを聞き、寄席に行き、客としてのセンスを磨きます。
その理由を語る部分がこちら。
落研に入ること自体がすでにプロの考えじゃない、と当時の僕は勝手に思ってました。
こんな前で聞くことができる大事な時間にも関わらず、自分がやってどうすんだよ、自分でやることなんて後でいくらでもできるでしょう、と。
今はお客としての感性を磨くときだし、それは絶対後で役に立つのに、何今やりたくなっちゃってんだよ、と思ってましたね。
全然プロになる段取りわかってねえなって。
絶滅危惧職、講談師を生きる 神田松之丞・松江松愛著 p47・48 新潮社
すごい面白い考え方ですよね。
プレイヤーとしてこれから何十年と研鑽をつむわけだから、何も今素人としてやる必要はない。
それよりも今は客として公平な立場から芸を受容すべきだ、という発想ですね。
そして、その考えの正しさは演じる側となった後に実証されます。
あの時(客時代)の自分だったらどう思うか、というのを僕は絶対基準にします。
演者って、お客さんの時代が長ければ長いほど良い芸人になれる気がします。
いろんな人を見てて思うんですけど、客時代が短い人は変な判断をすることが多い。
変っていうか、浅いんですよね。
仕事に来て普通にやってるだけ。
僕は落語をこうしたいんだとか、こういう講談をしたいんだとかっていうのが欠落していて、ただ才能だけでやっていたり、 才能にパラパラとふりかけるだけだったり。
売れていようが売れていまいが、いてもいなくてもいいみたいな芸人が多いんです。
絶滅危惧職、講談師を生きる 神田松之丞・松江松愛著 p49・50 新潮社
こういう考え方、すごい面白いと思いましたね。
客と演者、というものをすごく客観的に観察している。
彼の客観性というものが、すごく出た章ですね。
第三章 絶滅危惧職への入門
遂に講談の世界に足を踏む入れた神田青年。
ここで師匠を選ぶ際も、きちんと吟味し、総合的に判断して入門するところが「ぽいなあ」と(笑)。
また、彼の師匠である神田松鯉の指導法や、人格者な一面も語られます。
第四章 Fランク前座
彼がいかに生意気かつポンコツな土下座だったのかが語られます(笑)
ただ、彼がなぜ前座としてダメだったかと言うと、それは二ツ目以降の演者としての未来をしっかりと見据えていたからだと思いますね。
第五章 二つの協会で二ツ目に昇進
地獄のような前座修行を終え、遂に自由な講談活動をできるようになってからのお話。
「成金」やテレビ出演など、彼の実力により、どんどんと活躍の幅を広げていきます。
第六章 真打という近い未来
彼の現在、そして未来のビジョンが語られます。
ここで読み取れるのは、彼は自分の講談界の中でのポジション・役割を、驕ることも卑下することもなく把握しているということ。
その役割とは、世間の講談という世界への入り口、でしょうね。
彼は今、全ての講談師の中で最も人気があり、同時にメディア露出の多い講談師であるため、(自分のように)彼から講談と言う世界を知る人も多いでしょう。
彼はその人気・現状をきちんと把握し、その状況の中で、自分が講談という文化のために何をすべきか、というのをきちんと考えていることがわかります。
また、師匠である松鯉への恩義の気持ちもあふれており、心を打つものがありますね。
さて、この本全体を通して読み取れることは、彼が徹底して未来志向だ、ということ。
彼の眼は、常に未来に向いている印象を受けました。
例えば、今彼が目指していることの一つが、歌舞伎座での真打昇進披露目興業。
これは講談師でいまだやった人がないことですが、彼はこれを目標としています。
その理由は、歌舞伎役者でもあった師匠松鯉への恩返しと、講談界の発展のため。
六章でも書きましたが、彼は常に講談界のことを考えて行動しており、同時に自分がこれからの講談界を背負って立つ人物であることも自覚しています。
彼は常に客観的なんです。
自分と言うものを、外側から観察しているもう一人の自分がいる感覚と言うか。
いつも公的視点に立って物事を考えている印象です。
その視点が、彼の「成金」などのプロデューサーとしての能力にも活かされているのかなあ、と。
彼の中には、演者・神田松之丞と、演者・神田松之丞をセルフプロデュースするもう一人の神田松之丞がいる、そんな気がしますね。
だからものすごく頭がいい人なんだろうなあ、と。
実力ももちろんですが、そのセルフプロデュース能力の力が、今の彼の人気の秘密な気がしましたね。