こんにちは!
今回は映画「くちづけ」の感想です。
監督 堤幸彦
脚本 宅間孝行
この映画は、知的障がい者のグループホームを舞台に描かれる、暖かく・愛にあふれていて・そしてそれゆえに悲しい物語です。
この映画は本当に本当に本当におすすめです。
いや、おすすめ、という言葉は適切ではないですね。
是非みてください!
いや、やはりそういう言い方も適切じゃないですね。
本当はこう言いたい。
見なければならない映画です。
この作品では、知的障がい者をめぐる日本の行政制度・法制度・市民感情・そして知的障がい者の方達の生きにくさがリアルに描かれています。
だけれども、堅苦しくなく、まず一本の映画としてきちんと楽しめます。
脚本がまず良いですし、演出が「SPEC」などの堤監督なのもあるでしょうね。
その上でとても考えさせられる。
ネタバレをしてしまうと、この映画では最後、竹中直人演じる「いっぽんせんせい」が、貫地谷しほり演じる彼の娘を絞殺します。
なぜか?
それは自分がガンに犯され、余命が長くなく、もうすぐ死んでしまうと分かり、自分がいなくなった世界で、娘を守れなくなった世界で、彼女が生きていくには、この世界は、今の日本はあまりにも不完全。
だから、その世界で彼女が苦しむくらいなら、いっそ・・・。
ということなんです。
このシーンがすごく長い。
娘に謝り続けながら首を締め続ける父親、最後のその瞬間まで父親をまったく疑うことなく愛した娘。
この二人のまわりをゆっくりと何度も回転するカメラ。
辛いシーンだからなのか、この場面はすごく長く感じます。
でも、それは嫌な長さではありません。
むしろ、僕たちこの映画を見ている健常者の、彼女たちに対する無関心が、彼女を殺させているんではないか?という気分になります。
同時にこれは、いっぽんせんせいの罪、贖罪としての長さでもあるでしょうね。
結局この殺しの是非は、観客にゆだねられます。
皆さんは、彼はもっとこの世界を、人を、信じるべきだったと思いますか?
でも、劇中でこんなことが語られます。
・娘が同僚に騙され、レイプされかけたこと
・犯罪者として服役している人の中には、一定数の知的障がい者がいること
・彼らは警察の取り調べで無罪にも関わらず「自分が犯人だ」と言わされてしまうこと
・街で見かける本当に汚くボロボロなホームレスのほとんどが福祉からも見放された知的障がい者であること
はたして、こんな現実がある中で、彼の行為を悪だと断罪できるでしょうか?
むしろ、彼に娘を殺させてしまう日本の福祉制度自体が悪なのではないでしょうか?
そして、それに無関心な僕らも同罪なのではなのでしょうか?
熱くなってしまいましたが、それくらい心を動かされる映画なんです。
この映画を見て、何度号泣したかわかりません。
しかし、その涙は、自分の快楽のために流す涙ではありません。
あまりにも不条理な現実に置かれている彼女たちのために流さなければならない涙です。
タイトルにもしましたが、これは「泣ける」映画なんかじゃない、「泣かざるをえない」映画。
涙を流し、そして今も不自由を強いられている人たちのために、この国を変えなければならない、と思ってしまう・思わされてしまう映画です。
是非などということは言えません。
あなたが見なければならない映画です。
今回ばかりは言わせてください。
絶対に見て下さい。