こんにちは!
今回は伊坂幸太郎作「フーガはユーガ」の感想です。
伊坂幸太郎作品でよく描かれるテーマのひとつに「理由なき悪意」というものがあると思います。
例えば「重力ピエロ」の春の母親をレイプした男のように「必然性がなく自分の快楽のために他人を傷つける人間」がよく悪役として登場します。
今回もその系譜の作品だったなあ、と。
今回でいえば「主人公二人を虐待する父親」「姪を性のはけ口にする叔父」「小学生を殺す金持ちの息子」の主に三人がそういった「悪意」の象徴として登場します。
そして、それと対抗する主人公たちに与えられたのは「誕生日の日、2時間ごとにお互いの位置が入れ替わる」という瞬間移動能力。
この力を使って主人公が悪意とどう戦っていくのか、が本作の見どころです。
自分は伊坂幸太郎作品が本当に好きで、出来る限り読んでいるのですが、今回も期待を裏切らず面白かったですね。
過去作品とのリンク(今回は「オーデュボンの祈り」)、終盤で回収されていく伏線、小規模な奇跡の積み重ねによるラスト。
いつもの彼の作品ではありますが、その「いつもの」が高水準なので大満足!
最後に今回一番恐ろしかったシーンの話をさせてください。
それは主人公が務めるコンビニで仲良くなった親子の話。
彼の務めるコンビニにいつものようにやってきた親子。
仲良くいつものように行われる会話。
しかし最悪なのは、それをやっと逃れた虐待オヤジに見つかってしまったこと。
理不尽な虐待?「ボク」と呼ばれる「私」? (ストーリーな女たち)
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「父です」と自己紹介し、親子を油断させ、その数日後このクソやろうが行うあまりにも非道な行為。
ありがたいことに(?)自分の父親は虐待などしないまともな人間でしたが、もしこんなクソやろうが父親だったら、そして自分がやっと築き上げた人間関係をぶち壊されたら、本当に絶望的な気持ちになるし、殺してやりたいと思うでしょうね。
だって殺すことでしか、その悪意から逃れることができないから。
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昔法学部に居た時もこんな救いようのない判例を学びました。
それは実の父親に性的虐待を受け続け、やっとできた結婚相手との関係もその父親にぶち壊され、最終的に7人くらいの実の父親の子供を産んだ女性が、いよいよ耐え切れなくなり父親を殺した、という事件。
これは法学史的には「尊属殺人」についての激論を招き、最終的に(確か)裁判所の法解釈を変えさせた事件でした。
この事件について詳しく知りたい方は、「尊属殺重罰規定違憲判決」で調べてみて下さい。
最高裁の違憲判決?「伝家の宝刀」をなぜ抜かないのか? (光文社新書)
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現実に、こんな悲惨な・残酷なことが起きてるんです。
親というのは、つきまとってきます、生きていく上で、何をするにも。
子供なんて馬鹿だって、ドクズだって作れてしまうんです、残念ながら。
消えたい ──虐待された人の生き方から知る心の幸せ (ちくま文庫)
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自分が生きていく上で、十字架にしかならない人間を、それでも許さなきゃいけないのか?
殺しちゃいけないのか?
そんなことを考えさせる本でした。
なお、伊坂幸太郎さんは東北大学法学部卒なので、当然この事件は知っているはずです。
ちなみに上の事件では、実質無罪といえるような判決が彼女に下った(はずです)。