こんにちは!
今回は映画「アメリカン・スナイパー」の感想です。
監督 クリント・イーストウッド 脚本 ジェイソン・ホール
あらすじはこんな感じ↓
クリス・カイルはテキサス州に生まれ、厳格な父親から狩猟の技術を仕込まれながら育った。
やがて時は経ち、ロデオに明け暮れていたカイルは、アメリカ大使館爆破事件をきっかけに海軍へ志願する。
30歳という年齢ながら厳しい訓練を突破して特殊部隊シールズに配属され、私生活でも恋人タヤと共に幸せな生活を送るカイルであったが、間もなくアメリカ同時多発テロ事件を契機に戦争が始まり、カイルもタヤとの結婚式の場で戦地への派遣命令が下るのだった。
イラク戦争で狙撃兵として類まれな才能を開花させたカイルは、多くの戦果から軍内で「伝説(レジェンド)」と称賛されると共に、敵からは「悪魔」と呼ばれ懸賞金をかけられていた。
テロ組織を率いるザルカーウィーを捜索する作戦へと参加したカイルは1000m級の狙撃を得意とする元オリンピック射撃選手の敵スナイパー「ムスタファ」と遭遇し、以後何度も死闘を繰り広げる。繰り返される凄惨な戦いのなかで親友のビグルスは戦傷により視力を失い、戦争に疑問を感じ始めたマーク・リーは戦死し、強い兄にあこがれて海兵隊に入隊した弟はイラク派兵で心に深い傷を負って除隊した。
同僚や弟が戦場で傷付き、倒れゆく様を目の当たりにし、徐々にカイルの心はPTSDに蝕ばまれていった。戦地から帰国するたびに変わっていく夫の姿に苦しみ、人間らしさを取り戻してほしいと嘆願するタヤの願いもむなしく、戦地から帰国するたびにカイルと家族との溝は広がっていく。
この映画は非常に考えさせられる映画です。
書き始めたこの時点でも、この映画を通して監督であるクリントン・イーストウッドが何を伝えたかったのか、まだつかめている気がしません。
とはいえ書きながら答えが見つかるかもしれませんし、自分がこの映画からつかんだことを羅列していきたいと思います。
①これは戦争によって心を破壊された男たちの映画である
この映画ではイラク戦争が半分くらいの尺をかけて描かれますが、監督がほんとうに描きたいことはそのあと、彼らが祖国・アメリカに戻ってから発病したPTSDにある、と思います。
PTSDとトラウマのすべてがわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)
- 作者: 飛鳥井望
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/11/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 40回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
退役した後の主人公・クリスの言動がどう考えても以上なのは見れば誰でもわかることですし、彼が唯一心を休めている(ように見える)場が(元)軍人たちとの交流であることからもそれは明らかでしょう。
彼ら(軍人たち)の心は最後まで戦場に置き去りにされたままなのです(多分)。
②「羊」「狼」「羊の番犬」とは何か?
主人公が戦争に行く動機ともなる、彼の父親(=テキサス男=ゴリゴリの保守)から教えられる「羊」「狼」「羊の番犬」の理論。
「羊」とは「弱気もの」、「狼」とは「弱気ものをおそうもの」、そして「羊の番犬」とは「弱気ものを外敵から守る英雄」です。
彼の父親は彼に「羊の番犬たれ」と教え込み、その教えを信じた彼は9.11テロを体験し、軍隊に志願、イラク戦争で敵兵を撃ち殺します。
つまりこの時点では、「羊」=アメリカ国民、「狼」=アメリカの敵(=イラク)、「羊の番犬」=アメリカ軍(=自分)です。
しかし、実際に戦争がはじまると、彼が撃ち殺すのは、もちろん成人男性の軍人もいますが、中には女性や子供もいる。
そして彼はその女性や子供も撃ち殺す。
Bravo Sniper War Shooterファイティングアリーナ3Dでの生存のルール:戦場シミュレータでのテロリストの射殺
- 出版社/メーカー: Games Village
- 発売日: 2018/08/31
- メディア: アプリ
- この商品を含むブログを見る
もちろん戦闘員でない女性や子供を殺すことは彼の中に葛藤やストレスを生みます。
その結果として彼はPTSDを発症してしまうのです。
つまり、彼の中にある 「羊」=アメリカ国民、「狼」=アメリカの敵(=イラク)、「羊の番犬」=アメリカ軍(=自分)という価値観は揺らいでいるのです。
もし彼の中でこの価値観が絶対なもので、完全に内面化されているならば、子供だろうが女性だろうがバンバン撃ち殺して「イエーイ!敵をぶち殺したぜ!フゥー↑アメリカ万歳!!!」となっているはず(実際、彼が子供を撃ち殺した時、同僚はそういうリアクション)。
人生で一度はやってみたいアメリカ横断の旅 バイリンガールちかの旅ログ
- 作者: 吉田ちか
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2018/03/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
しかしそうはならない。彼の中でこの価値観を完全には信じきれない。
少なくとも、監督はそういう意図で演出している。
なぜか?
それは、そもそもイラク戦争と言うもの自体が欺瞞だからです。
イラク戦争をアメリカが始めた理由は、「イラクが大量破壊兵器を所持しているから」。
しかし、そんなものはなかった。
これはアメリカ政府が認めていることです。
つまり、彼らが寄って立つ価値観(それは同時に人を殺すことの言い訳でもある)は、そもそも前提が間違っていた。
「狼」なんていなかったんです。
「狼」がいないということは、「羊の番犬」もいない。
だから、みんな「羊」だったんです、多分。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
- 作者: フィリップ・K・ディック,土井宏明,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1977/03/01
- メディア: 文庫
- 購入: 70人 クリック: 769回
- この商品を含むブログ (439件) を見る
③ラストで主人公が死ななければならなかったのはなぜか?
もちろん、これは手記を書いた実際の人物が現実に殺されたからです。
- 作者: クリス・カイル,スコット・マキューエン,ジム・デフェリス,田口俊樹・他
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (18件) を見る
でも、なぜイーストウッドはああいう演出をしたのか?
なぜあんなに突き放すような、不条理を感じさせる演出だったのか?
おそらく「羊の番犬」だと思われていた(思い込んでいた)軍人たちも、所詮は「羊」であり、弱い存在であり、だから心を病んだ。
それはレジェントと呼ばれ、英雄と思われていた主人公ですらそうなんだ、という論理を補強するためのものだ、ということはわかります。
でも、それ以外の意図もあるんじゃないのか?
それはこの「クリス・カイル」という人物をよく理解したときに理解できるのでしょう。
アメリカン・スナイパー クリス・カイルの伝説と真実 (竹書房文庫)
- 作者: マイケル・J・ムーニー,有澤真庭
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2015/04/23
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
とりあえず彼の自伝を読みます、そのあとでこの疑問にもう一度向き合いたいと思います。
(とりあえずの)まとめ
とにかく心を激しく揺さぶられる映画でした、是非。
こういう深読みをしなくても、リアルな戦争ものとしても楽しめると思います。